「さくら、薬と体温計忘れないように」
「分かってるよ。忘れるわけないでしょ」
大学の卒業記念に友人達と3泊4日で台湾旅行に行くことになった私は、明日の出発に備えて荷詰めに追われているのであるが、スマホのアプリになったロック(注:第六話参照)が相変わらずうるさく口出しをしてくる。
「台湾と日本の時差は1時間」
「だけど、旅行中は台湾の時間に合わせて薬を飲んだり体温を測るのでオッケー」
「日本の朝7時は台湾の朝6時だけど、さくらは早起きしなくてオッケー」
「新しい薬は、朝飲んだら夜は飲まなくて良し」
今日はいつにも増して饒舌である。
「無理なの分かってるけど、少し黙ってられないのロック?」
「先生からの指示が沢山来てるから、黙ってるの無理ー」
私が高校生の時に参加していた治験で、伴走者(監視役ともいうけど)として家にやってきた治験サポートロボットのロックは治験終了の時に回収されてしまったけど、その後スマホのアプリとして私の元に戻ってきた。最初の頃は体温と服薬の時間を知らせてくれるだけの簡単なものだったんだけど、その後の度重なるアップデートで、今やかかりつけのお医者さんの処方データやカルテとも連携して、相互にデータのやり取りをしながら、日々私の状態にあった生活指導までが配信される立派なアプリになった。
私が体温を測ると体温計のデータがスマホに飛んで、そこから病院のカルテに飛ぶ。逆に、先生や看護師さんからの指導が病院からやってくると、それがロックのアプリを経由して再生されるといった感じ。まぁ、指導するのがロックなのでどうでも良い情報やお喋りにそこそこの時間を費やされるのは相変わらずなんだけど、今となっては私にとって欠かせないツールの一つである。
私が治験に参加した薬は大学に入ってから暫くして発売になり、最初は朝晩2回飲まなければいけなかったのが、今年から徐放性の製剤に変わって、朝だけ飲めば大丈夫になった。おかげで、ロックに薬飲めって言われるのも、朝だけになってすっきりした感じだし、毎日の事だから回数が減るっていうのは良いことだよね。
「さくら、準備が終わったら明日は早いんだから早く寝るように」
「はぁ?あんたは私のお母さんか?」