「ロック今までいろいろとありがとう。ロックのことはずっと忘れないよ」
ロックの背中にあるボタンを少し長めに押すと、お腹のお花マークが点滅を始めた。
「あいるびーばっく」
そう一言いい残すと、ロックの電源が切れて動かなくなった。
ロックの本体をキャタピラから外して、ロックが送られてきた時に入っていた段ボール箱に入れた。治験のサポートセンターから送られてきた送り先の書かれた伝票を段ボールに貼り付けて、暫くするといつもの宅配便のおじさんがやってきてロックを運び出していった。
「騒がしいロボットだったけど、居なくなると寂しいもんだねぇ」
私はお母さん以上に寂しかったけど、治験が終わったらロックを返さないといけないのは分かっていたし、お別れ会は昨日の夜に済ませていた。
ロックが居なくなって最初の月曜日、臨床試験が終わった後の診察と説明があるということで、かかりつけのお医者さんを受診した。ロックが居た時には、ビデオ通話というかロックの映すフォログラムでの受診が多かったけど、今回はリアル通院である。一通りの検査が終わったあと診察を受けながら先生の話を聞いた。
「さくらさん。さくらさんが参加していた治験は必要なデータを全て取り終わったのでこれで終了になります。よく頑張りましたね。さくらさんを含め、患者さんたちの結果がすごく良かったみたいなので、あの薬はいずれ発売されると思います。ただ、さくらさんの場合、このタイミングで薬を飲むのを止めると発売までの間は生活に支障が出てしまうと思われるので、私はそれが心配だったのですが、治験参加者に対しては、患者さんの生活の質を維持するためという名目で引き続きあの薬が提供されることになったんです」
「ええ!本当ですか?」
「ということなので、定期的に診察しながら引き続き薬は処方出来るから安心してください。心配なのは飲み忘れですね。ロボットが居なくなって大変ですが、こればっかりはさくらさんに頑張ってもらわないといけません。よろしくお願いしますね」
家に帰ると、治験事務局から郵便が届いていた。
治験事務局からのご案内
八重野さくら様
長期にわたり臨床試験にご参加いただき誠にありがとうございました。
主治医の磯野先生からお聞き及びかと思いますが、引き続き治験薬をご提供できることになりました。磯野先生の指導の下、引き続きよろしくお願いいたします。
なお、飲み忘れ防止のためこちらのQRコードを使って服薬管理のアプリをダウンロードの上、初期設定画面にて以下の認証キーを入力してお使いください。不具合等については引き続き治験サポートセンターにてご対応いたします。
認証キー: ABC112334
まごねこヘルスサイエンス株式会社 治験サポートセンター
担当 XXX
スマホでQRコードを読み取ってみると、「服薬管理サポート」なるアプリのダウンロード画面が表示されたので、アプリを起動して手紙に書いてあった認証キーを入力してみた。すると、
「やあさくら、ひさしぶり!」
「え?ロックなの?」
「さくらのスマホに憑依して復活!ところで、夜の服薬時間とっくに過ぎてるんだけど...」
こうして、姿は変わってしまったけど、ロックは私の元に戻ってきたのだった。
「さくら、体温測って」
「ロック、もう治験は終わったんでしょ」
「健康チェックの一環として普段から体温を測るのは当たり前だろ。それにさくらは薬飲み続けてるんだから、ちゃんと面倒見ないと」
相変わらずこんな状態である。