未来の臨床試験 - 第十三話 さくら、合成アームの生成に挑戦する

2025年1月5日(2021年6月23日初出)

「さくら君、君は高校生の時に治験に参加していたことがあるって言ってたけど、もし自分が参加している治験で、自分が飲んでいる薬がプラセボだって分かったらどんな気分になると思うかな?」
「それは、あんまりいい気分にはならないですよね。いや、それどころか自分が飲んでいたものが薬でも何でもないただの砂糖の塊だったって知ったら、悲しい気持ちになりますね」
「だから疾患によっては一定期間プラセボを投与した後に実薬投与に切り替えるようなクロスオーバー法が使われることもあるけど、プラセボを飲んでいる間の治療効果は期待できないわけで、もやっとした気分は変わらないよね」

おっと、今日はいきなりそういう変化球で来たか。でも、うちの社長が何を考えているのかはお見通しだぞ。

「特に癌や希少疾患の患者さんの場合は、プラセボを投与すること自体が倫理的にどうなのかなって思うこともありますもんね」
「そうだね。だからこそ、合成アームっていう考え方が出てきたんだけど」

やっぱりそういう展開になったか。

「過去にプラセボを投与されていた癌とか希少疾患の患者さんのデータが必要ってことですよね?でも、そんなデータ、都合よくその辺に転がってたりはしないですよね」
「その通り。今日は冴えてるねぇ。実際にそういったデータが無い訳じゃないし、学会とかでも発表されていることはいるんだけど、気軽に使える場所にデータがあるかっていうと、そうではないんだよね。そこが問題」
「だからこそ、わが社の開発したヴァーチャルツインズの技術(第二話参照)とリアルワールドデータを組み合わせて、シミュレーションにかけたら、理論上は完璧な合成アームを生成できる、というのが次の研究課題になるんですね」
「今日は本当に冴えてるねぇ。じゃ、A社から来た薬剤の情報を送るので、ヴァーチャルツインズのパラメータ設定と合成アームの生成をお願いするね」
「かしこまりー」

最初はどんな話かと思ったけど、結局そういうことか。ヴァーチャルツインズのクライテリア設定が大変だけど、例数100位なら3時間もあれば計算できるかな。

こうして、今日も計算機と向き合ったまま夜が更けていくのであった。