未来の臨床試験 - 第七話 EDCの終焉

2024年7月25日(2020年7月6日初出)

「さくら君、昔々CRFは全て紙で出来ていて、しかもノートみたいに製本してあったから、モニターは先生にアポを取ったらそのCRFの束を施設まで持って行って...」

またまた社長の昔話が始まったぞ。ほいほい、その話はもう今回で3回目だから良く分かってますよ。で、最後は先生に印鑑下さいって言ったら、「なんで俺のハンコ押さなきゃいけないんだ。俺は何の責任も取らないぞ」って言われたって話でしょう。

「最後、T病院の先生に署名と印鑑下さいって言ったら、なんで俺のハンコ押さなきゃいけないんだって言われて一悶着。その先生、責任医師だったんだけど....」
「で、その後にEDCが出てきて、あれよあれよという間に紙のCRFは無くなってしまったんだよな」

おや、今日は続きがあるのか。いつもだったらT病院の先生を何とか説得して印鑑貰った、紙のCRFの時代は大変だったなぁ。で完結する社長の話が思わぬ展開をみせたので、もうしばらく聞いていることにした。

「まぁ、そのEDCもぼちぼち終わりを迎えてSDCに置き換わりそうっていうんだから、技術の進歩っていうのは凄いもんだね。実際、5年前のパンデミックが無かったらこんなに早く事が動くことはなかったと思うけど」

私が大学2年生の時に例のコロナ騒ぎが起こって、それ以降世界中のあらゆるものが変わってしまったのだ。ちなみに、SDCというのはSource Data Captureの略で、例えば電子カルテのデータと治験のデータベースをシステム同士を電子的につなぐことで、そのままカルテのデータを治験データベースに吸い上げてしまおうっていうシステムのことである。

ideal eSource image

「世の中が一気に変わっちゃいましたからね。当時は病院に行くのも一苦労だったし」
「でも、そういった事情を反映してか、電子化の動きは一層進んで、殆どのデータが電子的に回収できるようになったのもその頃だ。少し前までは、紙のCRFもEDCも医療の現場で臨床開発のためのデータを書いたり入力したりして、転記をしたデータを収集していたけど、ここ最近やっとSDCが普及してきて、今は殆どのシステムが電子的に繋がってデータが自動的に流れていくようになった。おかげで、医療現場の負担はものすごく減ったと思うし、データそのものの品質も上がったし、SDVのために何度も施設を訪問するってことも必要なくなったから、いいことづくめだよ」
「今後、ますます私たちのようなデータサイエンティストは忙しくなりそうですね」

そう言いながら、昔、自分自身が参加していた治験を思い出した。あの時は、ロックが居て毎日データを集めてくれてたんだね。ロックの集めたデータはそのまま中央のデータベースに吸い上げられて、蓄積されていったわけで、データそのものが原資料になってたからSDVみたいなことも不要だったんだね。そういう意味では、当時ロックを使って治験をやったというのはやっぱり凄いことだったんだな。