AIによる破壊的イノベーション - 20年前のシステムやプロセスはDXの恰好の餌食になる

2024年7月25日

今から15年ほど前、私はあるEDCシステムを広めるために、お客様のオフィスを訪問しては、以下のような決め台詞を使っていました。

「このシステムを導入することによって、従来のプロセスに比べてコストが20%も下がります」
「従来に比べて、作業のスピードが1.2倍になります」
「結果として、必要な症例データが2カ月ほど早く集まります」

当時は「さすがに2カ月短縮は無いでしょう」と言われていましたが、システム導入から1、2年が経過すると、お客様からは
「EDCを使い始めたら、症例の組み入れがスムーズになるわ、データクリーニングの時間が短くなるわで、プロトコルに書かれた期間よりも2カ月早くデータベースロックまで行っちゃったよ。申し訳ないけど、残り2か月分のライセンス費は支払いたくないんで何とかしてもらえる?」
というような要望が出るようになり、営業の皆さんが困る状況が発生しました。

正直なところ、EDCによってデータクリーニングのスピードは多少早くなるだろうと思っていましたが、症例の組み入れがスムーズになるとは予想していなかったため、思わぬ効果に皆が驚かされました。確かにEDCの導入によって、20%のコストダウンや業務スピードが1.2倍に向上といったことが実現できており、当時としては画期的な出来事だったと思いますし、そんな出来事を目の当たりに出来たことは非常に良い経験だったと思います。

一方で、私が第3回DIA Japan CDMワークショップでEDCの概念を紹介したのが2000年1月、EDCのデモを始めたのが2003年、自分が構築したEDCで実際の臨床試験データの収集が始まったのが2006年になるのですが、2006年の時点で現在のシステムの形態や業務フローは確立されており、システムそのものはバージョンアップによって機能が追加されたり、新しいUIが導入されているものの、EDCが日本で使われるようになってからかれこれ20年近くも同様の機能を持つシステムを同じようなワークフローで使い続けていることが分かります。

現在は2024年ですから、流石に20年以上も前のシステムや業務プロセスは、DXの観点からすると改善の対象とされるべきものだと思いますし、古いだけあって改善の余地はあらゆる所にあります。

そしてタイミング的にも、ここ数年、特にコロナパンデミック以降に登場したAIシステムの中には、

「このシステムを導入することによって、従来のプロセスに比べてモニタリングのコストが8分の1になります」
「従来に比べて、SDTM作成のスピードが10倍になります」
「これまで1.5年かけて収集していた症例データが1年で集まります」

といったことが可能になる優れものが出現してきており、実際に結果が出始めています。(前出のコラム参照)

こういったAIシステムは、特に熟練の技術者が長年の経験と勘を基に実施していた匠の技や、やってることはサイエンスでないにも拘らずプロセス上は高コストの人材が時間をかけて行っているような作業を置き換えたり、極度に効率化することに優れています。まさにDXの真骨頂である「社会的、文化的、または経済的活動に情報技術を融合することによって、従来と比べてより良い体験を提供すること」を実現するものだと言えるでしょう。

以下は、EDCをAkyrian社のSDEに置き換えることによって、臨床試験でおなじみのデータ照合作業であるSDVを撤廃することを示した動画です。

現在、臨床試験で収集されるデータの殆どは、電子カルテの記録を始め、セントラルラボ測定の臨床検査値やePROのデータなど、生成段階から電子の状態で生成、記録されているため、そのまま収集することが出来るはずです。しかしながら、EDCに限っては電子カルテからEDCへの転記(再入力)という作業が発生するため、データの真正性を担保するためには、EDCに入力されたデータと電子カルテに記録されたデータの照合作業であるSDVが必要です。最近はRBM的観点から部分的SDV適用といった事例も出てきていますが、あくまでSDVの間引きであり、SDVを実施するという行為はEDCの黎明期から20年以上経過した現在でも変わっておりません。一方で、SDVにかかるコストは治験コスト全体の15%から20%を占めると言われており、電子カルテデータの直接取り込みによるSDVの廃止が可能になれば、治験全体のコストダウンとスピードアップが実現されることは間違いありません。

電子カルテからの臨床試験データの直接抽出(Source Data Capture, SDC)という概念は、EDCが登場した頃には既に検討されており、「EDCはすぐにSDCに置き換えられる」とも言われていました。しかし、それから20年以上経った現在でも、満足のいくSDCシステムは登場しておりません。Akyrian SDEは、これを打破するために開発された電子カルテからのデータ抽出システムであり、電子カルテに保存されているデータを100%抽出することが可能なシステムです。近い将来、SDEによってEDCが置き換えられることで、臨床試験が次の段階に進化することを期待しています。