新しいシステムを導入する際、まずは小規模なモデルでPoCを実施し、そのシステムが顧客の課題を解決できるかどうかを評価することが、最近のIT導入プロジェクトでよく行われている方法です。その後、PoCでGO判定が出たらパイロットプロジェクトを実施し、ビジネス的な側面からの検証を行い、導入効果が見込めそうであれば本番実装してリリースするという流れでシステムの導入が進められるようです。IT導入プロジェクトでPoCを実施するというこのような進め方は、ここ5年から10年くらいの間に実施されるようになったもので、それ以前(私がバリバリとシステム導入していた頃)は、初期導入時の検証作業として小規模なパイロットプロジェクトを行い、うまく行ったら本番導入するというのが一般的でした。
この、現在主流となっている「まずPoCをやって」といった進め方を見ていると、私の経験が既に風化しつつあるのかと感じます。一方で、PoCで検証する検証環境が短期間かつ低コストで構築できる従来型のシステムであればこの進め方は有効だと思うものの、自社でAIモデルを構築するプロジェクトの場合、PoCの段階でAIモデルを構築するという話になり、本来期待されているPoCの実施という意味では、この進め方はうまく機能しないのではないかと感じています。これは、約2年ほど前に「臨床試験実施計画書(プロトコル)作成の効率化のためにAIが使えないか」という検証や検討を始めた時に抱いた大きな違和感です。
その理由は単純で、PoCでGO判定をもらえるようなAIモデルを組むのは短期間かつ低コストではできません。もし仮にPoCで満足のいくAIモデルが完成したとしたら、その時点でAIモデルの構築は完了しており、あとは実利用に必要なUIの追加やAIの教育フェーズに入るだけです。つまり、PoC終了の時点でAIが完成しているということになります。しかし、そこまで進むにはかなりの予算と期間が必要です。最悪なのは、かなりの予算をかけてAIモデルを作り、PoCでGO判定が得られなかった場合です。この場合、全てが無駄になり、短期間かつ低コストというPoCの本来の目的とは全く違うものになってしまいます。
と、ここまで考えて詰んでしまったので、AIに詳しい知人に上記の疑問をぶつけてみたところ、「え、そうだよ」と言われてしまいました。
例えば、ClinicalTrials.govで公開されている臨床試験のデータをAIに学習させて、プロトコルの最適化をサポートするAIモデルを構築しようとします。このAIモデルを構築するのに、構築費とデータのクリーニングで結構真面目に見積もってざっと4千万円程度かかります。データのクリーニングが面倒なので、既製のクリーニング済みデータを購入すると尚更高くなり、5千万円から6千万円かかります。これではとてもPoCにかける金額ではなくなってしまいます。
では、どうするのが賢明かと言うと、既製のAIモデルを購入し、ある程度自社のプロセスをそのモデルに寄せていくことです。これであれば、従来のIT導入同様に、小規模なパイロットプロジェクトも可能ですし、新たなワークフローの検証も可能です。
ということで、何でもかんでも自社開発&PoCではなく、パッケージソフトを使ったパイロットプロジェクトという選択肢も一つになるのではないかというお話でした。