AIによる破壊的イノベーション - 赤い色のモビルスーツは3倍の速さだけど、こっちは9倍

2024年5月6日

今、Googleで「AI 臨床試験」という検索を行うと、合成対照群(Synthetic Control Arm)、被験者のリクルーティング、施設選定といったことにAIが活用され始め、それなりの成果も出始めていることがわかります。それらの多くは(MedidataのSCAのような一部の例外を除いて)、AIの学習にリアルワールドデータを使用しており、臨床試験のデザインや実施計画の立案段階で効果を上げていることが分かります。

最近、米国に住む知人と話をしていたところ、製薬企業やCROに在籍する熟練のフィージビリティチェック専門家や施設選定のスペシャリストよりも、AIモデルが素早くかつ的確に臨床試験を実施する際の候補となる施設を順位付けし、リストを作成してくれるようになっていることを教えてもらいました。彼は「実際に人間がやるよりも早いんだよ」と言っていました。このAIモデルは、これまでは個人の知識や経験に依存していた高度に専門的な技術でも、それを裏付ける十分なデータが用意されればAIに置き換えることが可能であるという事例の一つと言えるでしょう。

このように臨床試験においても、AIを活用した様々なソリューションが提供され始めていることがわかりますが、一方で、施設のモニタリングやクリニカルデータマネジメントなど、臨床試験中に行われる業務についてはどうでしょうか。

今回ご紹介するSaama Technologies社(以下Saama)のソリューションは、現在実施されている臨床試験のデータにAIを組み合わせることで、臨床試験中に行われる施設のモニタリングやクリニカルデータマネジメント、メディカルモニタリングなどのプロセスを効率化し、開発そのもののスピードアップを図るものです。このようなアプローチはまだ他に例のないものです。

このSaamaのソリューションは、COVID-19感染症のワクチン開発において実施された「ワープ・スピード作戦(Operation Warp Speed)」にも使用され、開発のスピードアップに寄与した実績もあります。Saamaが公表しているデータを元に作成したデータレビュー効率化の実績を見てみましょう(下図)

Saamaのソリューションの費用および時間削減効果

Smart Data Quality (SDQ)はクリニカルデータマネジメント業務におけるデータレビュー及びクエリ管理に利用されるモジュールであり、左の図と表は、この業務に対してどの程度の効果があったかを示しています。臨床試験プロセスの中でも時間を要するクリニカルデータマネジメント業務において、ここに示したような9倍という圧倒的な効果が得られることは特筆すべきでしょう。

また、右の図と表は、申請用に使用されるSDTM形式のデータセットを作成するためのモジュールであるSource to Submissionにより、SDTMデータセットを作成するためのプログラムが従来よりも効率的に開発できることを示しています。こちらも従来比で10倍の効果が得られるという結果が出ています。

さらに、SDQやSource to Submissionなどのソリューションを導入することは、AIモデルを1から構築しPoCを実施するよりも費用対効果が高いという点が重要です。これらのソリューションは、2カ月程度で導入が可能であり、導入コストも比較的低いため、製薬企業にとって魅力的な選択肢となります。AIを活用した臨床試験の効率化は、ますます重要性を増すでしょう。

AIの活用事例では、これまで新しいシステムを導入する際に言われていた「業務効率が2倍になります」といった比較とは異なり、桁違いの効果が出ることもポイントの一つと言えるでしょう。